大河内 敦の裏blog(番外編)

広告会社に勤める一級建築士の断食経験とその後。

<番外編> 宝山寺というお寺

 目の前に、私が「ご利益のテーマパーク」と読んでいる「信貴山宝山寺」がある。

 山のお寺で高低差が激しいため、入所2日目の、まだ食事ができて体力がある間にお

 参りした。

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 このお寺、古来大阪のお商売人さんをターゲットに発展してきたお寺で、境内の寄

 付をした方々の氏名を記した石柱に「金・壱億円」などと、景気のいい金額が並ぶ。

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 数多くのお堂があり、「商売繁盛」「家内安全」「無病息災」「交通安全」・・・そ

 の他もろもろにご利益があるものとされており、いわゆる「現世利益」のお寺であ

 る。多くのお堂を前に、いきおい参拝者はあっちこっちでお賽銭を投げることになる

 わけである。

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 奥の院に至るアプローチにはお地蔵様が並び、その前にも一つひとつお賽銭皿が置か

 れている。几帳面な参拝者は1円玉をたくさん持ってきて、上り下りの際に一つづつ

 お賽銭を入れていく。(ちなみに、1円玉の両替もこのお寺では受け付けてくれる。)

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 宝山寺の参道にはかつて「生駒新地」と言われる遊郭街があった。こういったところ

 も、ナニワの商売人向けビジネスモデルで街全体が出来ていたのが分かる。

 

 しかし、お地蔵さんに挟まれたアプローチを抜けて奥の院に至ると、開山堂には中興

 開山湛海律師の姿が安置された開山堂、さらに、宝山寺全体を見下ろす岸壁に設置さ

 れた「般若窟」 ~ これは、その昔修行者がこの窟内に般若経を納め、また、弘法

 大師も修行されたと伝わる霊窟があったりする。当初は厳しい修行の場であった事が

 感じられる。本尊が仏の道を厳しい態度で導く不動明王というのもイメージにぴった

 りだ。

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 尋常では考えられない厳しい修行を重ねた律師の祈祷の有難さにあやかろうと、ナニ

 ワのあきんど達が現世利益を求めて参拝した、というのが現在の宝山寺を形作ったプ

 ロセスの様だ。 

 

<岩谷の滝>

 奥の院からの下り道をちょっとそれたところに「岩谷の滝」という滝がある。

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 こちらは「般若の滝」とは違い、「岩谷の滝 大聖院」という立派な礼拝対象だ。ここ

 にも不動明王像が置かれている。やはりここも、マイナスイオンたっぷりの山の中の

 霊場だ。

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 宝山寺奥の院、岩谷の滝でお賽銭を投げ、「この断食が有意義なものになります様

 に」と祈り、帰途についた。

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5月11日(土)  ー 本断食9日目

今日も朝からよく晴れている。多分、入所してから最高気温を記録することになると思う。天気予報では28度まで上がるそうだ。4日前は28年ぶりの低温だったのだが。

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体重の減少はやや落ち着いてきて、逆に体脂肪・ウェストの減少傾向なのは昨日と同じ。

気分は悪くないのだが、少し長い会話をしたりメールのやり取りがあるとビックリするほど疲れる。昨日も院長先生と一時間余りお話をする機会があったのだが、途中で辛くなり、失礼ながら途中で話を切り上げて部屋で寝てしまった。ソファーから立ち上がるのも太ももに力が入りにくくなっており、勢いをつけないといけない。

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何度か話に出ていた、65歳になる寺井先生が打たれていた「般若の滝」は、静養院から歩いて20分足らずのところにある。そこに至る道沿いには、緑に恵まれた景色のいいところに普通に民家が立ち並び、ホンマにこの道でええんやろか、と不安になるころに遠くから滝の音が聞こえてくる。小さな橋を渡ると左手に「般若の滝」に至るアプローチがある。

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中に入ると、周りの豊かな木々と滝のマイナスイオンで非常に清涼な空気に包まれていながら、かつ、霊場としてのちょっと怖いような雰囲気もあり、ここに来るまでの民家が立ち並ぶ普通の世界から、突然別世界にカットインした様な感覚におそわれる。

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この道は古くは宝山寺に至る参道で、昔この滝の前には茶店が開かれており、山道を歩いてきた参拝者がこのマイナスイオンいっぱいの滝の前で休憩していたらしい。また、霊場と言う事でもあり、ここで滝に打たれた参拝者や療養者もいたのだろう。

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般若の滝に打たれる寺井先生。昭和39年

入所して断食が始まった日、ここに来てお参りし「断食が有意義なものになります様に。」とお祈りした。

5月10日(金)  ー 本断食8日目

ここ数日、五月らしくない天候が続いたが、ついに今日から本格的に暖かい日が続くらしい。本日の最高気温26度。夏日である。朝窓を開けると空全体に拡がった薄い薄い雲を貫いて朝日が射していた。山の緑も影が濃い。

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この2日ほど睡眠時間が短くなっている。入所以来8時になると眠くなり布団に入っていたが、昨日は気が付くと消灯時間の9時を過ぎていた。布団に入ってもなかなか寝付けなかった。疲労が取れてきたからかもしれない。

胸の筋肉薄くなっている。ここ10数年、週2回ほどのジム通いをしてボディビルダーの様に胸が動かせるまで筋肉が付いていたのだが。ためしに動かしてみると動きが少し鈍い。筋肉が緩んでいる感じだ。これも「冬眠状が態」の結果か。ウェストも急に減った。増え続けていた体脂肪率も減少傾向。体内の脂肪が本格的に消費され始めたのかもしれない。

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昨日、朝夕礼拝が昔は精神修養的な意味合いで始まったと書いたが、昔の静養院の風景が娯楽室に掲示されているので、それを紹介しようと思う。

静養院断食療養所は、大正7年に創立、今年で100周年になる。昭和元年に院長に着いた寺井嵩雄さんが、断食の治癒効果の科学的な実証を大学などと連携して押し進め、医療施設になった際に断食道場から断食療養所に名称変更された。

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なお、現院長は、寺井嵩雄さんのお孫さんにあたる。

当時の患者さんの病気がが治っていく様子。写真は、正岡子規の死因であり、また、堀辰夫のBL小説「燃ゆる頬」にも登場する「脊柱カリエス」軽快の経過。1か月の断食で突起が小さくなっていく様子がわかる。もともと脊柱カリエスは骨の結核で、罹患の原因は抵抗力の弱さに起因する。断食によって高まる免疫力で症状が改善されていったものかと。

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病気が改善した多くの方たち。

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館内にも多くの退所者からの感謝の辞が掲出されている。

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昭和39年には、NHKのドキュメンタリーや読売テレビ「11PM」でも紹介される。NHKが放送するからには、厳しい内容チェックがあったろうから、単なる民間療法の枠を超えたエビデンスがあったんだと思う。

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なお、滝にあたってらっしゃるのは、当時65歳の寺井先生。(この滝については、またご紹介します。) 

そして、私が今朝も参加した朝礼拝の当時の様子。朝日に向かって入所者が正座している。

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5月9日(木)  ー 本断食7日目

とうとう、断食を開始して今日で一週間。今日は外の景色に薄雲が広がる。窓を開けると昨日ほどではないがひんやりした空気。私が住んでいる西宮ではありえないほど空気がカラッとしている。(昨日の最低湿度18%!)

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先生のお話だと、一週間ぐらいを境に身体が「冬眠モード」に入るらしく、エネルギーの消費量が低下し、その分体重の減少も緩やかになるらしい。いずれにしても第2段階に突入。どうなるかな。

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前にも書いたように、静養院では朝夕、娯楽室に希望者だけ集まって、礼拝をおこなう。

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院長先導の元、般若心経を3回読経、その後「正座の辞」を復唱、そして、1、2分正座をする。断食や読経と言うと、宗教的な修養をイメージするかも知れないが、この施設はそういうこととは無縁である。院長先生にこの礼拝の意味を尋ねると「昔はやはり精神修養的な側面も大きかったので、この習慣が出来た。今は、日々の療養生活にメリハリをつけるためにやっている。特に本断食中は1日中何もすることが無いので。」とのこと。

また「自然腹式呼吸になるので、身体によい。」とも。確かに般若心経を声を出して読むと、畳み掛けるようなお経で息継ぎする場所が難しく、勢い息を吐ききる感じになる。息を吐ききると、自然に胸だけでなくお腹まですぼまり、次に息を吸ったときに自然と腹式呼吸になる。なるほど。

自分の印象だけで言わせてもらうと、断食中は精神的には過敏になってイライラしがちだが、息を吐ききる様な早口の読経と、腹の底から声を出す正座の辞の復唱は、不思議と気分を落ち着かせ、そのあと最後の正座の時間、驚くほど穏やかに気分になり、木々越しの朝日があたる娯楽室で、周囲の山々の静寂が生き生きと感じられる。

この療養所ができた100年前は、もちろん医学は今ほど進歩していないし、もっと民間療法が生活に溶け込んでいたはずだ。いろんな医者にかかり、薬を飲んで、それでも治らず、ワラにすがる思いでこの療養所の扉を叩いた方もいるだろう。長い療養所の歴史のなかで不安を抱えた患者の精神状態を落ち着かせるためのメソッドとしてこの読経・復唱・座禅の習慣が出来たのかな、と思う。 

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猫院長ヒナちゃん。上の礼拝写真の手前にシッポが写っている。この療養所には4匹の猫院長がおり、朝夕の礼拝時にやってきて、よく一緒に正座している。

 

 

 

5月8日(水)  ー 本断食6日目

昨日の夜は冷えた。冷たい空気が流れ込んだのと、晴天による放射冷却が重なり、5月としては珍しく霜注意報が発令された。東京は28年ぶりの気温の低さだったそうだ。

よく晴れて、風も穏やかになったので朝から洗濯。明らかに体の動きが鈍くなっている。体力が落ちているのと、あまり動かないから体が硬くなっている様だ。

洗濯が終わるまでの間、日向ぼっこして冷えた身体を温める。明日からはまた曇り始めるらしい。

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今日で6日目。断食を始めてまる5日が過ぎた。

この5日間の身体の変化だが、

 

・脚かつらなくなった。

 ここ数年、少し変な体勢をとったり、力の入れ方をしたり、また、夜寝ていてノビを

 したりしても、カジュアルに脚がつっていた。脚がつる原因は正確には解明されてい

 ないらしいが、これは不思議な変化だ。

・鼻をかまなくなった。

 ふだん、午前中は鼻がグシュグシュして何度かかむのだが、ここに来てそれもなくな

 った。これも、不思議な変化だ。

 

このまま、帰宅してもこの状態が続くといいな。

 

この5日間の体重と体脂肪の変化をまとめてみた。棒グラフが体重(赤が朝、青が夕方 のもの。)、折れ線グラフが体脂肪(同じく、赤が朝、青が夕方)  の値を示している。

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体重が減少するにしたがって、体脂肪が増加傾向なのがわかると思う。これは、以前にも書いたように、身体に栄養補給するために体内の脂肪が血液中に溶け出していることを示している。これは例えば、毎日自家製のすき焼きのラードだけ食べて生きているのに等しい。おそらく今血液検査をすると、コレステロール値、尿酸値、その他最悪の検査結果が出るだろう。

前回の経験だと、回復食が始まると体重はもちろん増加を始めるが、体脂肪は減っていき、やがて、入所時の体脂肪率を超えて低下する。 ~ 今はちょうど、そのジャンプする前に膝を曲げて屈みこんでいる状態だ。

5月7日(火)  ー 本断食5日目

とうとう、断食5日目。

ゴールデンウィークが終わり、入所者がめっきり減ってしまった。

夜中の3時半ごろ、4日ぶり便意をもよおす。タール状の便が出て、その後脱力状態になった。

朝起きた時には、脱力からはスッキリ回復していたが、この件について朝礼拝終わりで院長先生に訊いてみると、

・出たのは残留便。脱力したのは、排泄にエネルギーが使われたから。

との事だった。排泄後脱力するという様なことは普段の生活では考えられないのだが、それだけ体力が落ちていると言う事か。いずれにしても、余計なものが出て行ってくれるのはいいことだ。多分、空っぽになった腸が激しく動いた結果だと思う。

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20年前の断食の際の、同じく5日目に撮ったポラロイドがあるので見てみる。

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明らかに、ダメージを受けている。特に目が危ない(笑)。桃の缶詰が食べたくってしょうがなかったのを覚えている。

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脱力には驚いたが、今回はこの時と比べるとかなり余裕である。

 

5月6日(月)  ー 本断食4日目

今日も頭は痛くない。体重が80キロを割り込んだ。逆に体脂肪は増加傾向。これは、体内に蓄積されている脂肪の分解が始まり、血液中に溶け出していることを表す。脳が低血糖状態になると頭痛がするわけだが、体内の脂肪の分解により、糖の代替物が脳に提供され始めた模様。ふつう、この状態に至るスイッチが入るまでが苦しいのだが、今回はあっさり進行したようだ。 

少し元気になったようだが、ここで出かけたりするとものすごく疲れるのは、前回経験済みなので、朝からおとなしく本を読んだりしてた。

Walkmanで音楽も聞いた。Perfumeのアルバム"Future Pop"。テクノポップながら詩情に溢れたいい作品だ。 ~ 前回は頭が痛くて音楽なんて聴く余裕がなかった。

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今回は二回目と言う事もあり、想定できていたことも多く、心の準備が出来ているので総じて穏やかな気分で断食が進行している様に感じる。

ゴールデンウィークの熱狂を冷ますように、夕方から雨になった。

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窓を開けると濡れた葉と土のにおいがする。